真冬の惨事
岡部淳太郎

いま この傾いた陽の中で起こる
出来事を讃えよ
祈りは虚しく 鳥撃ち落し
霜の降下は 胸患いの効果を現す
空にかかる花は 萎れ 枯れ果て
この寒気にふさわしい   闇が
笑いを噛み殺して  やって来る

やがて空の内臓がばらばらと
白い剥片となって  降ってきて
薄暗い魂ははや 陶器の中に入る

今年もいっぱい死にました
今年もいっぱい生まれました

青空は滅亡し  硬球の縫い目の
ような煩わしい脳をもてあまして
しらすの尾を長引かせて
急ぐことが  それ自体が惨事だ

お母ちゃんは? と問いかけて
死んじゃったよと聞かされ途端に
泣き出した子供よ
そのかたわらでわけもわからずに
何かを食べていた子供よ

今年もいっぱい死んで
(悲しいです)
今年もいっぱい生まれて
(悲しいです)

明日は
たくさん  生き残れますように
つぶやきながら 冬の扉を閉める
のを急ぐこと それ自体が惨事だ

何故 と 滅び去った空に 問え
今年も終り

いっぱい死んで
(悲しいです)
いっぱい生まれて
(悲しいです)

その事態を つづる
午後三時
おやつの時間ですから
何かを食べましょう
夕暮れは
もうすぐだ



(二〇〇五年十一月)


自由詩 真冬の惨事 Copyright 岡部淳太郎 2005-12-11 14:26:18
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