十二月に降る雪のように
嘉野千尋



   甘くない珈琲を
   手の中で
   大事そうにしていた
   猫舌だと言って
   大事そうにずっと
   両手の中で



   十二月に降る雪のように
   まだ小さな結晶のまま
   わたしたち
   あの時たしかに
   寄り添っていたけれど
   互いに背を預けながら
   他の誰かを恋しく想ってた
 

  
   抱きしめるときは
   いつも背中からだったから
   あなたがあの時
   微笑んでいたのかどうかさえ知らない
   駅のホームで
   立ち尽くしたままのあなたの背中が
   一人泣いているみたいで
   だから抱きしめずにはいられなかったのだと
   そう思っていたのに



   十二月の空の下で
   閉じた手の中の
   大切なものに
   見えないのに
   どこかで気付き始めてる
   わたしもあなたも
   音もなく降り始めた雪のように
   やっと



   




自由詩 十二月に降る雪のように Copyright 嘉野千尋 2005-12-10 18:20:28
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