午後の水
木立 悟




目を閉じ
緑はほとばしる
陽の音が 陽の熱が
やわらかな迷路に落ちてゆく


川に沿って光は曲がり
風は遅れてあとを追う
土のかけらは水のなか
異なる火となり揺れている


ふいに重なる鏡の声が
冬の湖辺の両眼をすぎ
凍りついた路の手のひら
青く溶けては結ばれてゆく


左へ左へと持ち去られる
ゆがみ消えゆくものの胸
大きな通りを見おろす微笑み
銀へ銀へとさざめく午後の背


流れに触れる手のかたち
そのままの指のうらおもて
時雨をまわし 火をまわし
まだらのうたに燃えあがる腕


ひとつめふたつめのついばみのはざま
かたくななはばたきの合い間から
飛び立つ緑のつめたさたちは
空のかけらの生きものに会う


光は森に棲むのだった
ときおりぽつりと顔をのぞかせ
とても森には見えぬほど小さな
ひとつきりの森に棲むのだった


通りが見えなくなるくらいまで
水の粒はななめにこぼれ
緑に消えゆく小さな傘に
銀の名前を書きしるす










自由詩 午後の水 Copyright 木立 悟 2005-12-09 17:04:54
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