チQ

静かな
人気のない草むらの片隅に
穴が空いていた。
小指ほどの大きさの穴だった。
つぎの日
穴はにぎりこぶしほどの大きさになった。
そのつぎの日
穴は子猫が入ることのできるほど大きくなった。

そういう訳で
子猫が一匹そこに泊まった。

それから三日ほどすると
穴は大人の猫がつがいで暮らせるほどになった。
子猫も大きくなり子供が生まれた。


ひと月ほどすると
穴は車がすっぽり入るほど大きくなった。

ある旅人がそれを見つけた。
旅人は村人に知らせた。
村人は村長に知らせた。
村長は知事に知らせた。
知事は王様に知らせた。

そういう訳で
穴は国じゅうの者の知るところとなった。
そして
誰かが誰かに知らせるたびに
穴はどんどん大きくなり
ついには国の半分ほどになってしまった。

穴で暮らす国民とそうでない国民が
争いを始めた。
穴の中は一年中あたたかく
作物もよく育ち
穴の外よりも住みごこちがよいからだ。

争いは毎日毎日
それが千回以上繰り返された。


たくさんの人がいなくなって
みんな疲れはてた頃
子猫だった
今では立派になった猫が現れ

「にゃー」と言ったあと
不思議な言葉を発すると
穴は消えてしまった。

あっけにとられた国民が
皆、膝をついて空を見上げると
穴があった。

黒く、白く
交互にかがやいて
それは皆の心に降り注いだ。


散文(批評随筆小説等)Copyright チQ 2005-12-09 15:16:06
notebook Home 戻る