岡村明子

語る言葉を失ったとき
心に入ってくるのは
天使か
悪魔か

脳内から蜜のようにとろけだす
他人はただ見てうなずいている
私の言葉でない
何かに

流れ出した言葉は
時流という川に乗って滔滔と
雑踏の中をゆきすぎる
たくさんの言葉が落ち葉のように流れていく

街を歩きながら悪魔はこう考えた
痴漢を働くのもひとかどの人間
情に棹させば人は簡単に流れる
意地を通してでも金が欲しい
兎角に人の世は住みやすい

拾った言の葉の
裏を見てみたら
「はじめまして」と書いてあった

見知らぬ人よ
あなたは
天使か
悪魔か

誰のものでもない言葉が
誰かのもののようになって
自分でもそれと気づかずに
滔滔と
滔滔と
秋の川のように
人々の間を流れていく
小石を転がし
ときにきらめいて

乗れない流れを眺めるだけの
落ち葉のかたまりがある
朽ちてなお流されぬよう踏ん張っている老木がある

そんな川のほとりにたたずみながら
石を投げる私がいる


自由詩Copyright 岡村明子 2005-12-05 19:02:05
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