60's Tip
HARD
あれはもう60年代が終わりを告げようとしていたあるホテルだ
ウイスキーは匂いだけのままあたりをうろうろし
クリスマスツリーのてっぺんの星は胴体を切り取られたように見えない血を流していた
アジア系の禿た老人の荷物を運んだ
日本人かと思って彼の口の開くのを待ったがついぞ開かれなかった
部屋に到着して 当然 チップを待った
彼は首を傾げた
少々嫌ではあったが手を軽く差し伸べた
僕の掌にポンと置かれた物は
コインじゃなかった
乾電池2本とクリップだった
乾電池 クリップ 乾電池 クリップ 乾電池 クリップ 乾電池 クリップ
2本の乾電池は鼻の穴から
クリップは口から
僕の中へづかづかと入ってきた
彼はニタニタ笑っている
目を開けると乾電池がクリップの取り合いをしている
顔は(顔?)表情が全くなく 罵声(声?)もあげず
ただただクリップをお互いにつかんでひっぱっている
僕はポケットからレッドカードを出した
効果はない
何枚も何枚も出した
効果はない
しまいに僕は泣き叫んだ
何が悲しくてクリップを取り合わなければならないのだと
僕はその時思う
すると乾電池は爆発し 爆風でクリップは世界の外へと吹き飛ぶ
スポン
2本の乾電池と
クリップが
飛び出して 床に落ちた
彼はニタニタ笑っている
僕はというと靴を脱いで 頭にのせて
深く彼に礼をした
もちろん靴が頭から落ちぬように