オムレツは知らない
ブルース瀬戸内

オムレツはオムレツだ。

オムレツはオムレットだ。

オムレツは卵だ。

オムレツは知性だ。

オムレツは繊細を誇る。

オムレツは食欲をそそる。

オムレツは不可逆だ。

オムレツは不可侵か。

それでもオムレツは知らないこともある。


オムレツはトマトケチャップをこよなく愛し

トマトケチャップはパスタに片思いしている。

オムレツは傷心だ。

オムレツは現実だ。

オムレツは理想ではない。



私の理想であるあなたの作る、

オムレツは沈黙する。

オムレツは上品に

オムレツは口を閉ざす。



オムレツは実際はその命運を

ケチャップに委ねている。

世界は常に何かの過渡期である。

オムレツは完成されている。

オムレツは完成されていた。

後にも先にも

もうひけないのだ。

オムレツはケチャップを食べる。

自らを委ねていたものを

オムレツは食べる。

しみこんでいるだけかもしれないが

ケチャップはもうパスタの方を向けない。

意味ありげなふくらみは

虚勢なのかもしれないが。

そのドーム状の中に潜む

すべての謎と一緒に

私はオムレツをすべて食べる。

皿にはケチャップの、未練が残っている。

そのことを

オムレツは、もう知らない。


自由詩 オムレツは知らない Copyright ブルース瀬戸内 2005-12-03 00:06:27
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