この街を去ってゆく君へ
ベンジャミン

「引越しするので手伝ってください」

久しぶりの幼馴染からのメールを見て
行くとあらかた荷物は片付いていたのに
ただ
アルバムや卒業文集が
ダンボールのわきに積み上げられていて
それが手付かずのままだった

「ぜんぶ一人でやるつもりだったんだけど」

そいつは肩をすくめながら
アルバムを手にとってぱらぱらとめくっている
僕はそれを覗きこみながら
どうでもない昔話を
口を開けたダンボールの中に詰め込んでいった

「あとは一人でできるから平気」

そいつは自販機で買った
ホットコーヒーを僕にわたしながら
それが人肌程度の温かさだったことが
どうしょうもなく悲しかった

外はすっかり日も暮れて
点々と続く街灯の下

見送るその
動き出したトラックの窓から伸ばされた手が
住み慣れた街に大きくさよならを描いても

手のひらが
僕に向けられていないことに

少しだけ安心しながら


    



自由詩 この街を去ってゆく君へ Copyright ベンジャミン 2005-11-24 13:29:04
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