ワイパーのある生活
たもつ



ワイパーを身体につけたんだよ
ネジでさ、おへその穴に固定してね
勤続十五周年だもの
いろいろな人が去っていったもの
自分へのせめてものご褒美だもの

憧れていたんだ、ワイパーのある生活に
誰かが忘れていった骨みたいのが
カッチッカッチって
勤勉に規則正しく動くだろう
滑稽だよ、素敵だよ
でも勘違いしちゃいけない
憧れていたのはワイパーのある生活で
ワイパーそのものじゃないんだから

たしかにワイパーをつけたところで
雨を防ぐことはできやしない
眼鏡だって雨にさらされるから
景色はすぐに滲んでしまう
交差点
信号が赤から青になって
色とりどりに傘の波が動き出して
ぼやけた輪郭はつながって
自分だけ秒単位で遮断される

それでも時々、雲ひとつない夜空を見上げていると
ワイパーがプロペラみたいにブルンブルン回転し始めて
あの星とあの星の間を飛んでいけるんじゃないかって
スイッチをいれてみたりするんだよ





自由詩 ワイパーのある生活 Copyright たもつ 2004-01-15 08:39:54
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