演出
かや
戦後の娼婦きどりで
緑地に黒い花模様のワンピース
軍服みたいなコートを羽織って
男物の
赤茶けたウエスタンブーツは
歩くのに適していない
が
意固地に引きずる
産婦人科の
ある種の気まずさを吹き飛ばす活気に
本当は救われ
顔は落胆しそれでも
社会人として対応しようと
手櫛で髪を整えてから
そんなはずもないさと自嘲した
朝からの空腹に
精一杯の愛想を持って頼んだ蛸焼きが
冷めているのにむしろ満足する
店主の妻の疲れた愚痴を
かき消さない程度に荒々しく
新聞をめくってみもする
夕暮れが案外きれいだからではなく
当てなく歩く
向かってきては通り過ぎる
車のライトのまぶしさも
師走並と予報された寒さが
耳と鼻とを赤くするのも
振り払うように
足早に
とっくに重くなった足が
痛むごと
崩れてしまえばいいと思う
それは願いのようで
情けないのは
そうならないと知っているから
すべてが
男の腕に帰る
演出にしかみえない