壁画
千波 一也

頬を追い越してゆく風と
手招きをするような
まばゆい光

目指すべき方角は一つだと信じて疑わず
出口へと向かって
足を運んでいたつもりだった


不思議だね
振り返ることは敗北ではないのに
不思議だね
約束事のようにいつも
背中では
沈黙が守られていた
穏やかな温度でいつも
沈黙が守られていた


遙か前方でまばゆい光は
そこに向かう視線を容易にすり抜けて
歩みの後方で
やわらかに溶けてゆく
そう、
優しく広く後方で
溢れている光の在ることを
誰もが容易に忘れてしまうのだ
どこへと向かって
足を運んでいたのだったか


振り返る道の両脇にそびえる壁には
無造作に
絵図が浮かび上がる
胸に溢れる懐かしさは
記憶のなかに透けてゆく約束の
一つ一つに名前をつけて
少しずつその肩に
味方を増やしてゆくのだ

はじまりはいつも
浮遊をしたがるから
意味を忘れるその前に
記しておこう

足を休ませながら

優しい名前を




自由詩 壁画 Copyright 千波 一也 2005-11-22 18:20:31縦
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