浴室
かや

肌をすべる泡が灰色に変わりはじめ
見下げて
乳房から続く白い曲線や
つま先の綺麗な花色に
絶望する

口紅を塗らないのは
ちいさな爪を伸ばさないのは
この隙間を
みつけてほしいんだと

奥歯を噛んでけして言わず

汚いものはぞっとする速さで
そととなかとを侵す
その色はにびいろ
こめかみに手を当てて
黙祷するように独りごつ

おかあさん


愛のない乱暴さで
扱われたこどもが頬を濡らし
ごめんなさいと謝り続ける
のに
追いうちをかけるのは
鏡にうつる大人の顔

違和感はにびいろを生み
覆われて
栗色の髪も巻かれた睫毛も
現在さえ消え失せる
幼いこどものわたし
わたしのこどもは震えて
羊水のぬくもりを求めている


かみ殺した叫びに
浴槽の湯はほんの少し波立ってから
諦めたように
静かになるのだ




自由詩 浴室 Copyright かや 2005-11-18 19:41:52
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