fly poet
haniwa

詩人というひとは
ふわふわした話をして
霧がかかった町に住んでいて
控えめな音量のジャズバーで
うっすらと赤みがかったフィズばかり飲んで
酔いつぶれるなんてこともなく静かに部屋に帰って
その部屋というのは小高い丘の上にある築100年くらいのがらんとした長屋の一室で
けれどもインテリアにはこだわっていて蛍光灯なんてものは一切なくて
アーロンチェアに腰掛けてしばらくタバコをふかしたあとで
引き出しの中にしまった原稿用紙をしずかにしずかに取り出して
ペンたての代わりのコップの中からよく尖った鉛筆を選び出して
その最初の行に一行だけ書く
もしかしたら一単語だけ書く
ことによったら一文字だけ書く
そしたら疲れて寝てしまう
朝起きても食べ物がないけど
庭に生えたびわの木から一粒だけとってかじる
そしてまた夜になれば
ふわふわした話をしに
なじみのバーへ歩いて赴く

そんな生活をしている人が
詩人なんだって思ってたけど
きみときたら

金と女と政治の話
人が多すぎるビルの森
排気ガスで霞む日雇い労働者たちの町で
がはがは笑いながらビールと焼酎を飲んでいる
酔いつぶれて歩けなくなって
そこらのおっちゃんにタクシーに乗せてもらうかわりに
知り合いのソープ嬢を紹介してあげる
部屋はマンションの12階で
オートロックとオール電化とアンテナとケーブルとインターネットが完備されていて
そういえば締め切りが明日だったと気づいてあわてて
パソコンに向かって書き連ねる
タバコを百本くらい灰にして百行くらい書き連ねる
それからうんうんとうなりながら浅い眠りに落ち
朝になれば太陽を憎み
財布の残りを気にしながらすき家に行ってトンドントン汁サラダセットを食べる
食べた後はゲップをする
編集者に原稿を渡して
もらった金でまたビールと焼酎を飲んでいる
そして金と女と政治の話

きみはそれでもきっと飛べる
いまでもまだ
だからきみは詩人だ
だからぼくはきみの作り出す詩にやられる

すべての汚い人間と
すべての汚い世界を

詩人なんてそんなもんだろうとわらうきみは

きみは飛べる
羽の生えた
きみは詩人だ


自由詩 fly poet Copyright haniwa 2005-11-16 08:12:39
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