鼓動
砂木

天気予報の通りに 雨
今の季節は しょうがない

手首と 喉元に 水が
少しでも 沁み込まないように
タオルと 手差しを 巻き
雨合羽を 着込む

六尺のはしごが 私には 調度いい
八尺も使えるが 少し 重い

雨粒は 激しさを 増してくる
雪が降ったら 林檎はもげない

水は 流れるからまだいい
雪は 降り積もる
林檎にも 私にも

でこぼこの 畑の土壌にあわせて
はしごをかける

もぎとろうと 上に手をのばす
曇った空 と 雨
つかんで つかんで 

雪が来る前に 
果実が凍る前に

葉の裏に とんぼが いた
雨粒を避けて その羽は
ところどころ 破けている
近くの林檎をもいだら その反動で
しなった枝に はらい落とされる

もう どこへもいけない とんぼ
雨の中 悲鳴もあげない
けど 死ぬ気もない

その羽には さわれない
落ちるなよと 気をつけながら 後にする
秋の生き物達の 終わり
何度も 見送った 

冷たい空気が 無意味な生などないと
泥水 かぶったって また 流されて

赤い長靴 道連れに
手の届かない 枝に

水になっても
登っていく



自由詩 鼓動 Copyright 砂木 2005-11-15 23:29:20
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