笑う
恋月 ぴの

飲みすぎたアルコールとともに吐き出した
苦しみも 悲しみも 寂しさも
苛立ちも 憤りも何もかもが
それはもう呆気なく
それはもう大きな渦となって
便器の穴から消えてゆく


吐き出した 苦しみも 悲しみも 寂しさも
苛立ちも そして 憤りも何もかもが
単なる気まぐれに過ぎないのだから
口許についた吐瀉物と涎をハンカチで拭い
歪んだ顔を三角容器から拾った仮面で隠すと
化粧室の傾いだ扉をゆっくりと開く


そこは喧騒の坩堝 そこは淫猥の坩堝
自分勝手な言葉を酔いに託けて飛ばし合う
誰も聞いてはいない 誰も理解しようとしない
ただ そこにあるのは一方通行の満足感と
愛欲の舌先を絡ませ合う男と女の饐えた匂い


耳元に吹きかけられた酒臭さに空返事をしながら
確かめてみる 明日の天気 明日の降水確率


晴れ時々曇り 降水確率 20パーセント
今冬一番の木枯らしが吹き荒れた今日よりましなら
あの公園のベンチに腰掛けて 組んだ足を揺すり
総ての感情を吐瀉物とともに流した心の軽さを
確かめるように仮面をゆっくりと外して


仮面で蒸れた頬を叩く北風に笑う


自由詩 笑う Copyright 恋月 ぴの 2005-11-15 07:58:49
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