茨の冠
服部 剛

老人ホームの廊下にぽつんと置かれた
老婆の横たわるリクライニング

動かない首をギブスで固定され
閉じた瞳をしか
入浴の順番を待つ

今日こんにちは」

身をかがめて声をかけると 

「首が痛い・・・助けてください・・・」

か細い声は繰り返される 

黙って細い肩に置いた手のひらを
浴衣越ゆかたごしに老婆の体温ぬくもりが温める

「苦しい・・・」 

閉じた瞳を顰めた老婆の表情に
遥かな昔
茨の冠をかぶり 十字架にかけられた人の顔が うっすらと浮かぶ

そっと背を向けて去り 数分後に戻ると
老婆の姿が消えたリクライニングに残された

透明の茨の冠







自由詩 茨の冠 Copyright 服部 剛 2005-11-14 20:35:57
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