葬送譜
恋月 ぴの

胎内より産まれ出るとき 人は両の掌を握り締める
これからの生を掌から逃さぬように
そして命絶えるときも 人は両の掌を握り締める
これまでの生き様を掌から逃さぬように
これまでの記憶を掌から溢さぬように


指折り数え死を迎え


握り締めた生き様を何処へ持っていこうとするのか
命絶える時でさえ 人は己を手放そうとはしない


指折り数え死を迎え


両手の指を一本ずつ折り曲げながら生を数え
十本の指総てを閉じ終える それは命の尽きるとき
未来は眼前より消え失せ 荒涼と拡がる生きてきた日々
それは陽炎のように不確かなものであり
それは大樹の息吹のように確かなものでもある


指折り数え死を迎え


瞼を閉じれば昨夜の出来事のように鮮明に浮かび上がる
生きてきた日々を指先の内側にある細い隆起線のつくり出す
紋様一本一本に擦り込み 刻み込み なぞるようにして
追憶の指先で触れてみれば 過去の甘い生き様に
過去の苦い生き様に 血の気の失せた唇を震わせながら


命絶えるその瞬間


両の掌を強く握り締めてみる


自由詩 葬送譜 Copyright 恋月 ぴの 2005-11-10 06:44:08
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