坂道にて
松本 涼
真正面の三日月を眺めながら
帰りの坂道を登っていた
薄ぼんやりとしたその境目が
どこか僕に添うようで
しばらくの間僕はじっと
三日月を見つめて歩いた
するとやがて三日月は
空に滲むように膨張し始め
少しお腹が出た
半月になって止まった
ほぅ
と僕は溜息をついて
まだしばらく半月になった三日月を
見つめ続けた
すると半月になった三日月は
今度は細かく震えるように膨らんで
はち切れんばかりの満月になった
それから
僕は空から目を逸らし
真っ暗な舗道だけを見つめて坂を登った
坂の上でもう一度だけ空を見上げると
そこには元の三日月が
静かに光を讃えていた
結局のところ
どんな形だとしても
それが僕の
望んだものなのだろう