四季
渡邉建志

 


一月
夢から覚めた
中世の僧たちが
山の僧院から
列をなして
出てくるところだった
杖を突きながら
歩いていた
暗く



葬列
そのものが幽霊のように
凍った池を
あてもなく歩く
沈黙の糸を
引き摺りながら

鐘が鳴る
誰もいない僧院
石の匂い



  
三月
あなたは花のにおいがした
いや、あなたは
あなたのかたちをした花だった
春の風に無数の花弁が揺れて
はしりまわる小さな香りが
あなたの指先からこぼれていた



四月
あなたは雨のにおいがした
いや、あなたは
あなたのかたちをした雨だった
三月の花は雨に耐えられず落ちていった
雨のあなたを抱きしめてみても
無数の悲鳴が聞こえるばかりだった



川の源流で
一粒の雫が
生まれでようかどうしようか
悩んでいた
そのまわりでたくさんの仲間が
あふれでていった、
からりとした
空へ



  
ベランダから
踏切を見ていた
雨が降っていた
滲んだ光が流れていた

踏切が鳴った
光が淀んだ
踏切が上がった
光が流れだした
また
踏切が鳴った
光が淀んだ
そこに
あなたの瞳があった!

踏切が降りた
――瞳は消えた




ねむるまえにあなたは
むかしの旅の話をした
とおい国の高原の話
あなたはねむりに落ちた
閉じた瞼のむこうに
青い花が咲いた




部屋で
白い部屋で
白い部屋であなたが
ベッドの縁に座って足を伸ばしている
何もない
何もない部屋で
白いラジカセだけ床にあって
あなたはしばらくそれを見ている

あなたは伸ばした足で再生を押す
(CDがまわっている)
(CDがまわっている)
(CDがまわっている)
あなたはほほえんで部屋を出る




  
誕生日の朝
きみと鳥のように目覚める
きみは「プレゼント」といって
窓をあける
そこには
白く輝くパルテノン神殿
見上げればエンタシスが
秋晴れの空をつらぬき
オリンポスの神々が
天から列をなして降りてくる




色の精が天から降ってきて
緑の上で踊るのが見える
色のほうきに乗って
そこらじゅうに自分の色を移している


あなたはいう




まわっている雪の結晶

みあげている
あなたの
くびすじ
まぶた
まゆげ
めもと
みみ

まわっていたのは



  
あなたのふたえまぶたのまるみを
舟にしてその向こうの海を見た
つめたい静かな水平線は 
しかし
燃えさかる太陽を隠していて
ときにフレアが水平線を越えて叫びを上げた
ああ!
あるいは花のように舞い上がり
雪のように降りかかる
無数の粒子を見た
海底には硬い地盤の上に
悲しい屋根があった
あなたの窓はその上
あなたは首を出して
ちいさな鐘を鳴らした
ちいさな波がひろがり
舟は揺れて揺れて
空が荒れ神は次々と雷を降らした
それでも
あなたの薄い角膜は澄んでいて
ちいさな雫がそのなかを舞い
ちいさな蝶がそのなかを縫っていった
蝶はどこかへ消えた
ついに
激しすぎる太陽が現れ
あなたの薄い角膜が壊された
あなたはまぶたを閉ざし
あなたの髪は宙に舞い上がり
あなたはあなたの海底に
にぶいナイフを
三度振り下ろした
 
 


未詩・独白 四季 Copyright 渡邉建志 2005-11-03 12:23:48
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