あの頃が来た
まどろむ海月
扉を開けると
土砂降りの雨の中に
あの頃が立っていた
あの頃とは違って見えたが
私には直感ですぐに解ったのだった
成熟した女性の姿のあの頃は
招き入れると ずぶ濡れのまま
私の胸に倒れこんできた
何枚ものバスタオル 熱い風呂
まっさらのシーツ まあとにかく今
あの頃は私のベットで寝ているのだった
あの頃は人間で女性だったんだ と言うと
人間じゃなかったけど 女性ではあったのよ
と答えて 寝てしまったのだった
どぎまぎしてしまうほど美しい身体をしているのに
あどけないほど安心しきった顔で寝入っているのはどうしたことだろう
ベッドの周りをぐるぐる回りながら あの頃のことばかり考えて暮らしていた日々に
どうして戻ってきてくれなかったんだよ なんで今更 等々とわめきたくもあったけど
結局 足音をしのばせて何度も 綺麗な寝顔に魅入るばかりであったのだった
目を覚ます気配もないまま 深夜になった
いろんなことを考えすぎて もう頭はごちゃごちゃだった
眠いし 寝るとこないし 添い寝しちゃうもんね
返事がないから 入っちゃった
肩を抱くと柔らかいし 髪は好い匂いがするし
おいおい あの頃に欲情するなんて 相当の変態じゃないのかなあ
窮鳥懐に入れば何とかかんとかとも言うしなア
煩悩やら理性はどうしたやら良心の呵責やらなんやら
あの頃の産む子供は今頃の子供になるんだろうか等
お馬鹿な頭はますます混乱が窮まり 疲れてちょっと瞑想と目をつぶったら
不覚にもそのまま 気持ちよく寝入ってしまった
あの頃の夢は バラ色だったり七色だったり
チョー幸せなものでありました
先に目を覚ましたのは私
肩を抱かれたまま健やかにまどろんでいるあの頃
もう嬉しくて思わずカーテンをあけると
朝の光の中に溶けこむように
消えていった
すっかり落ちこんだ数日が過ぎると
不思議に幸せな日々がやってきた
どうやら心の中に
あの頃の子供を宿したのは
私のほうであったらしい
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夢の装置