パンフルートと秋鮭
恋月 ぴの

このパンフルートの音色で
君の過去を知る事が出来るとしても
僕は知りたくないし

このパンフルートの音色で
ふたりの未来を覗く事が出来るとしても
僕は覗きたくないよ

昨夜からの冷たい雨は
もうすっかりやんでいて
朝帰りの傘はなにげに恥ずかしい

新宿駅東口から吐き出されてくる
人々の流れを遡る君と僕は
故郷へ還る秋鮭になる

堰堤の高みで戸惑う君に
救いの手を差し伸べ
ふたりで故郷の街を目指そう

中央本線ホームは、すっかり秋の装い
傘で藍ちゃんの真似をして
君の笑顔を誘ったら
パンフルートを吹き鳴らそう

婚姻色に染まった君と僕を
祝福する川面の輝きは
寝不足のふたりには眩しすぎて

過去は知りたくない
未来も覗きたくない
この素晴らしい瞬間に生きる
今の時めきにパンフルートの音色を捧げたい


自由詩 パンフルートと秋鮭 Copyright 恋月 ぴの 2005-11-02 07:09:28
notebook Home 戻る