深緑原子
A道化






足は
深い草の中だった
踏んでいるつもりで踏む足音は
深く柔らかな草の中からだった


うらぶれたいだなんて、高架下
うらぶれたいだなんて、アスファルト
いつからか、踏んだ影はいつも夜だ
不自然な発光空間に、ヒリヒリ
遊んでいる振りがひしめき合う夜に
ねえ
酔っているのはお前だろうと笑ったら
酔っているのはお前だろうと笑ってくれ
そして
黙って


真っ白い頭痛薬なんて今更真っ白くて恥ずかしくて
素気無く押しやる掌の温度が幾分か平均よりもぬくいこと
嗅ぎつけては黙って握ったら、ただ、黙って握って
揉み消しあっているうちに朝が来て、何度も、何度も
朝が来なくなるまで朝が来て
ねえ
本当は酔ってなんてなかったと笑ったら
本当は酔ってなんてなかったと笑ってくれ
そして
黙って


幾つもの偽物の沈黙が
しゃがれて駄目になってやっと
はじめてみたいに純な沈黙が還元されるだろう
そのとき、躰が流れて染み込んでゆくなら
深い草の中がいい、かつての足がそうだったように
生きているつもりでそうではなくて深緑に還ってゆく足の
いつになっても聞こえない足音を待ちながら流れて染み込んで
深緑の原子になってもまだ生きているつもりでずっと、黙るなら
ねえ
深く柔らかな草の中が、いい



2005.10.29.


自由詩 深緑原子 Copyright A道化 2005-10-29 10:48:10
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