目を閉じる 7篇
nm6




1.
ぼくは風邪をひいたので目を閉じる。まぶたは、いつもよりもなめらかに溶けていく。まつげの長さを、指のはらで確認する。ぼくは人よりもまつげが長いといわれるからだ。


2.
最初はあたまの中がくらやみであることに気づき、喉の炎症のあたりをかすめて抜けて、そうして意識を下に下にとおろしていけば、皮膚がすべてのくらやみのおおもとであることを知る。


3.
だからきみは、目を閉じてばかりいてはいけない。この空の下でひそやかに過ごすとき、くらやみは夜だけで充分だ。きみは悲しいなみだを流すときに、いつもいけない。


4.
鳥が鳴くような音楽が聴こえる。音楽が聴こえるような鳥が鳴く。このくらやみが夜か体か、このあかるみが昼か空気か、ぼくはどちらでもいいし、いざとなればどこへでも行けばいい。


5.
うつくしい人はみなまつげが長いので、ぼくは少々たじろいでしまう。目を閉じているぼくを、誰がみているか。つむじの先から勘をとがらせて、できる限りうつくしくいたいと思う。


6.
つい忘れてしまうのは、ぼくが風邪をひいているということだ。ぼくの体は、ぼくを守ろうと前衛をしている。きみはこれからのぼくの戦いに、果たしてついてこれるだろうか。


7.
ぼくはいつしか眠ってしまう。きみのくらやみもいつしか朝を迎える。その瞬間をどうにもつかまえられないのは、ぼくがいつも目を開いていられないからかもしれない。



自由詩 目を閉じる 7篇 Copyright nm6 2005-10-28 18:54:54
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