架空のかもめ
A道化







冷たい砂浜に、誰か
体で泣いている


空生まれの灰が沈んできて
波へ死んできて
折り畳まれてゆく、その灰の
海はノイズだ


今は、眼を閉じて
耳だけのほうがわたしはかもめになれる
灰の海面近くを
低空飛行する


だからそのとき冷たい砂浜には誰もいない
冷たい砂浜に、誰か
体で泣いていることを思い出したら
かもめでなくなってしまう


かもめで、なくなったら
誰かにあのかもめの所在を問い詰めたい衝動を体と一緒に
灰に沈めるようにわたしは眼を閉じて、また、耳だけになる
さいごに一度、灰に沈み切って


そうして宙へ飛び立っていつか
何からも何処からも離れて架空飛行する


さよならは、言葉ではなくなってゆく
微かなシの音の、ノイズでできた空間になってゆく
もはやそのことを何も感覚せずに
灰はゆらゆら、かもめのように浮かぶ



2005.10.23.


自由詩 架空のかもめ Copyright A道化 2005-10-23 12:00:19
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