pすけの色即是空
第2の地球

ネットというこの希薄な大海の中で それでもそれなりに存在するものを
見失いつつもわたしは信じている

pすけが死んで もうじき49日になる

pすけは生前はpたんと呼ばれていたけれど
可哀想なことに死んでからは
わたしとループの間で 何故かpすけと呼ばれるようになってしまった

わたしの座右の銘は「色即是空」でそれを知っていた
pすけは 生前わたしに びゃくだんのいい匂いのする美しい数珠をくれた
ひとたまひとたまに 般若心経が刻まれており
勿論「色即是空」とも刻まれている

pすけは死んで「色即是空」といった
これは非常に考えさせられることで
死んだpすけ
おまえにだけはそんな言葉を言われたくないと
わたしはいつも思う


わたしが pすけに初めて会ったのは 今年の冬だった
ループが「彼は帝王だ」と紹介してくれたのに相応しい
知と徳を兼ね備えた あたたかな人だった
哲学が好きで 「知りたい」と言って笑った
わたしたちは3人でよく話すようになり 
わたしは pすけもループも心の底から 大好きだった

やがてpすけには 愛する女性が出来て
その女性を尊重したpすけと 話す機会は徐々に減っていった
それでも
わたしはpすけが大切だったし
pすけもわたしを大切に思ってくれてるのも知ってた
たまに道路をすれ違うように言葉を交わして
それで充分だと思っていた

最後に話したのはpすけが死ぬ半月くらい前だった
唐突に電話がかかってきて
めちゃめちゃに酔ってて 一方的にまくしたてて
その癖に
「俺はもっと知りたいんだ」と言って 
帝王は ないた


その後の土曜日
pすけのメッセがあがっていて
ループとわたしは 本当に久々にpすけに話しかけた
ループは「はーい マイク!!」と とてもおどけてpすけに話しかけて
わたしたちは笑った
pすけは 返事をしなかった
このとき もうpすけは死んでいた

日曜日になっても月曜日になっても メッセはあがったまま
メールにも返事がなく 電話も出ない

何かがおかしいと思った

わたしは 「p」という 彼の実在を知っていたが 
彼の住所や名前や 実家の電話番号や 現実と呼ばれてしまうものは殆ど何も知らなかった
どうしたらいいかわからなかった
現実と言うものが どこからどこまでをさすのかもわからず
ただただあがいて 途方に暮れた

ようやく何とか実家に電話することが出来た
pすけのお母さんも 
わたしが 誰で どんな関係で 何を言ってるのか全くわからない風だったけれど
あまりにも酷く泣くものだから
京都に住むおじさんが pすけの様子をみにいくからと 言ってくれた


独り暮らしの京都のマンションで pすけは死後4日くらいたって発見された
パソコンにうつぶせたまま 安らかに眠っていたときいた

ループに話をした
ループは 「おまえは暇だな」と冷たく言ったあとに
しばらくして
「たまにはpすけのことを思い出してやれよ」と言った
わたしはいまもその哀しい響きが 忘れられない


その夜は一睡もしなかった  眠ったらpすけが寂しがると思った
一晩中 月をあおいでいた 
「無駄に感傷的になるな」と 吐き捨てて ループはさっさと寝た
それもいいと思った
わたしは次の日も 仕事にも行かなかった 
もうなんだか こんなもんが現実と呼ばれるならば
現実はどうでもよかった

pすけの彼女と電話で話した
pすけが検死されるといって 泣いていた
おしりの穴まで調べられちゃうんだってと 言った

pすけのお葬式にはいかなかった
現実が何だかわからなかったし
唯心論者のpすけは 「かまわない」と笑うだろうと思った
けれど
和歌山のお墓には死ぬまでには一回くらい
行こうと思った

いまでも
ループと話してると pすけのはなしになる
そこではpすけが変わらずに いる
ネットの薄い感覚は余計pすけの存在を曖昧にするけれど
わたしは捉えどころを間違っていない自信はある

死者との関わりは死んでからも続いていく
それは主観に陥りがちだけれども 
わたしは まだぎりぎりに保っている

pすけ 
けして まっすぐでない 人の道を共に歩いたことを
わたしたちは 忘れないよ 

ここで冥福を祈っている

そして必ず また 話そう



散文(批評随筆小説等) pすけの色即是空 Copyright 第2の地球 2005-10-22 00:20:21
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