檻の夜
A道化







雲の
静かな暴走
高い青へ青へ
ゆけない、わたしの上に
上空があって


午後、
稲穂というよりも、風だった
肌が痛いほどの
午後だった、秋だった
その風


雲の
静かな暴走
ふと、高い青へ青へ
痣が、塞ぎこむ雲のお腹の痣へ厚ぼったく重なってゆく
そして無痛の黒色から、雨が、線を


無風の、無色の、雨が、線を
黒い夕刻に無数の線を、引き
ひとりにつきひとつの檻を静かに突きつけてゆく
檻がこれほどに後を絶たない夜に
鍵を持たない手のひら、と
鍵を持たない手のひら、は
きっと、巧く優しくなれるはず


傘の柄を握るこの手のひらのこんなにもひどい柔らかさ
こんなにもひどい柔らかさ、だけど、ねえ、
傘以上のものを叫び、リスクを負ってみたい
傘はいらない、と言い、痛みを伴ってみたい
鍵の無い手のひらにお決まりの傘があること
嗚呼、其処から何処かへ、嗚呼、
心よ、逃げればいいんだ、身体よ、逃げればいいんだ


雲だけ
静かな暴走
青へも黒へも此処から何処へも
ゆけない、わたしの上には
上空しかなくて



2005.10.15.


自由詩 檻の夜 Copyright A道化 2005-10-15 23:38:30
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