秋の椅子
銀猫

薄暗い廊下の突き当たり
古い鍵を回せば
きらきらと埃が舞うだけの部屋

東のカーテンは色褪せ
ピアノの音色は床に転がって
ソナチネの楽譜も気付かぬふり

窓の外には
金木犀がほろろ零れ
日記帳の何処かの頁に
シャーベットオレンジの栞が挟まれる



こころという区域の
奥にひっそりと佇む椅子は
木の感触が少し冷やりとします

いつ用意したのか
もう覚えてはいません

本当はあなたのために
置いた気もします



久しぶりに
部屋の埃を掃って
あなたにお茶を淹れましょう
愛情という不出来な焼き菓子と
木の葉のかたちのお砂糖を添えて

窓から眺める一面の鱗雲に
小さくため息をつきながら

記憶も曖昧な思い出話を
ひとつずつ
秋の中へ還しませんか





自由詩 秋の椅子 Copyright 銀猫 2005-10-14 08:54:33
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