小詩集「書置き」(六十一〜七十)
たもつ



焼き鳥が
香ばしい匂いを振りまきながら
暁の空を行く
カルシウムでできた複雑な骨を失い
たった一本の竹串を骨にすることで
初めて得た飛行を
力の限り大切にしながら
もうコケコッコーも
言わないつもりなのだ

+

交番の前では
制服姿の警察官が
三人で話をしている
すぐ近くにあるバケツでは
音も無く
水が蒸発している

+

仔犬の眼の中に
なみなみとしている
プールで私が泳いでいると
雨が降っているフェンスの
向こう側
誰かのお墓みたいに
木々が直立していて
いつか仔犬、
あなたの分まで
死んであげたいと思った

+

そんな幸せ
が転がっていて
小人たちが
拾い集めている
あの時
霧雨に濡れていたのは
何だったのだろう
静かな
壁の近くで

+

ミスとミスターと
が徒歩でやって来て
言葉を書いて
殴るように書いて
本当に殴って
簡単な履歴で良かったのに
わたしには何一つ干渉することなく
これは詩だよ、これは詩だよ
と朗読を始め
それからなるべく沢山の
フルーツ風味のドーナツを食べて
これは奇麗だよ、これは奇麗だよ
と空地に咲いていた
セイタカアワダチソウの良いところを
何本か見繕って摘んで
徒歩で帰って行った
ミスとミスターと
であった

+

夕べ着ていたパジャマと
同じ色をした霊柩車がゆっくりと走り
そのうしろを枕と同じ姿の人たちが
僕の遺影をもってついて行く
これは夢なのだ
すぐにわかりはしたが
夢から覚める方法を思い出せないまま
最後尾に並ぶ

+

長い廊下の一番奥では
補欠部員の僕が
練習をしています
足と耳のバランスが悪く
あとは残りの
手と声も
まだなれてません
もうひとつの一番奥では
レギュラーたちが
乗り物から降りるのが見えます
彼らはすっかりなれていて
その悲しみも
背負っているかのようでした
顧問の号令にあわせて
いっせいに瞬きをしています

+

夕食の準備をしている妻が
冷蔵庫を覗き込みながら
帰りたい、とつぶやくのを
僕は聞いてしまった
翌日故郷に向かうチケットを
二枚買って帰ると
妻は冷蔵庫の前から
決して動こうとはしなかった

+

男の人と女の人が
投入口から
コインを次々と入れていく
いろいろな形や大きさの
コインがあるというのに
いつまでたっても
必要な金額を満たさない
側では小さな男の子が所在無さ気に
蟻の行列を見ている
とてもわかりやすく言えば
僕はそんな子供だった

+

すっかりと細く
その気になれば
どこの隙間にでも
当てはまりそうなのに
わずかばかりの肉体
その厚みのために
わたしはまだ
いなければならない
遠くから
下校途中の子供たちの
声が聞こえる
わたしにもあんな時があった
そして
その声を聞いていた人が
確かにいたはずなのだ







自由詩 小詩集「書置き」(六十一〜七十) Copyright たもつ 2005-10-13 23:35:59
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