グレープフルーツ
大覚アキラ

予想外だった
こんなにも簡単に爆発してしまうなんて

 *   *   *   *   *

掌の中に包み込むようにして隠していたグレープフルーツは
レンタルビデオ屋の万引き防止センサのゲートに呆気なく引っかかり
警報ブザーが鳴り響く中
わたしは店内に入ることさえできないまま
その場から一目散に走って逃げた

どこをどう逃げてきたのかさっぱり分からないが
気がつくとそこは地下鉄千日前線桜川駅のホームで
わたしの右手の中にはまだグレープフルーツがあった

万引き防止センサには引っかかったが
駅の自動改札は問題なく通過できたらしい
ということは恐らく
このグレープフルーツの中には万引き防止タグのようなものが
巧妙に埋め込まれているに違いない

グレープフルーツはぶどうの味がするから
グレープフルーツっていうのよ

幼い頃 母がそんなことを言っていたような気がする
ふいにそれをおもいだしたわたしは
駅のベンチに腰掛けて グレープフルーツの皮を剥いてみた
果肉に傷をつけないように丁寧に 丁寧に

爪の先に違和感のある金属的な感触
そして同時にカチリという小さな音
視界が真っ白になって
柑橘系の匂いのする光が
全身の毛穴から身体の中に染み込んでくる

 *   *   *   *   *

母さん
ぶどうの味なんてしないよ 全然


自由詩 グレープフルーツ Copyright 大覚アキラ 2005-10-11 14:24:56
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