まあなんですかねえ、もうあれは何年前のことになるんでしょうかねえ。
私が24の時でした。
今も大して変わらないんですけど、とにかくビンボーでした。
当時は自衛隊を辞めたばっかりでどうしようかなあと思ってたところに、友達に呼ばれて一緒の部屋で暮らしていたりしたんですけど、今じゃ全然記憶にない理由でケンカしまして。
で、住んで2ヶ月目でそこを追い出されたんです。
年末でした。
しょうがないんでいろんな所に泊まり歩きながら高田馬場で立ったりして仕事もらってたりしたんです。
でもそれも、大晦日が差し掛かるころいよいよなくなってしまって。
まあ用心して多少はお金も残してたんですけど。
それをまあ、事もあろうに、あまりに暇なもんだから、ついうっかりゲーセンに入ってしまったのが運のツキでした。
コイン落としゲームを見た瞬間。
気がつくと持ってたお金の大半がなくなってしまったわけなんです。
大体が熱くなりやすいんですね。パチンコだって負けてる方が楽しかったりするし。
さあ困った。
どうしようかどうしようかあ、うわ〜、なんて悩みながら、とりあえず残っていたお金で立ち食いうどん食べに行ったんですね。
で、そのとき何気なくテレビを見てたら、酉の市のニュースをやってたんです。
集まってる人たちがお賽銭を投げてる映像でした。
その時、閃いたんですね。
「そうだ! 大晦日に明治神宮行って、落ちてるお金を拾えばいいんだ!」
まあ、ホントバカですね。
で、その時大晦日の夜まで1、2日あったのかな。とにかくひもじい思いに耐えて耐えて。
どうにかめでたく大晦日の夜となりました。
高田馬場から歩いて歩いていきました。
寒いしお腹減るしつらかったなあ。
で、長いこと歩いてやっと原宿にある神宮入口に来ました。
辺りが木ばかりでやたら鬱蒼としてました。
まあ、驚きましたよ。
人が夢の島のゴミのようにたくさんいて。
ごった返すとかもうそういうレベルじゃないんです。
なんでこんなに人が集まるんだろうって思っちゃいました。
で、混んでるもんだから進むのが遅い遅い。
目指す敵陣に着くまで、結構長くかかりました。
で、ちょうど除夜の鐘がなる頃着いたわけなんですが。
もうね。異常だと思いました。
ああいう所に行くの生まれて初めてだったんで余計そう思ったのかもしれませんけど。
なんかね、お金が雪合戦の雪玉のように投げられてるんです。
すげえなあって思いました。
あの、それだけ人が居るわけなんで賽銭箱じゃ足りないから、お賽銭用の敷地を、なんか本尊の置いてある建物みたいな所の前に広く取っていたんですけど。
当然そこに届かないお金もあるわけです。みんな歩いている道にもやたら落ちてました。
それをもう、亡者のように拾いまくりましたよ。
夜中だからとにかく鋭く光るのだけを拾い捲りました。
なんか鈍く光ってるやつってだいたい一円玉だったから、それはスルーです。
一通り拾って歩いて、賽銭広場の前まで来たら、また後ろに戻ってもう一回それやって。
一回だけだと、歩きながらだからあんまり拾えませんでした。
そんな事を何回か繰り返しました。
他にもいましたよ。私のようなアホが何人か。
ジャージ姿の中学生みたいな2人組とか、なんでか知らないけど印象に残ってます。
彼らはもしかして家出して、こんな事してるのかなあ、なんて考えたりしました。
なんだか同士のような気がしました。
周りには警備のおまわりさんも結構な数いたんですけど、特にお咎めはありませんでした。
ホウキと塵取りで神社のバイトの人たちが一生懸命小銭集めてたのも、なんか覚えてます。でも、その人たちも特に怒ったりしませんでした。
あまりの浅ましい姿に、同情を禁じえなかったんですかね。
で、そんな事してるうちに空が明るくなって。
数えてみたら三千いくらになりました。
時給にすると500円くらいでした。
バイトより割り合わないかなあなんて一瞬思いましたけど、手っ取り早かったからまあいいか、なんて思ったりして。
ホッとしましたね。
ああ、これで仕事ある日までもつなあって。
ホント、うれしかったなあ。
で、原宿の駅まで戻って、山手線に乗るとあとは爆睡して、その日は終わりです。
それで、その後ちゃんとしてたら良かったんだけど。
あまりにも暇なもんだから、次の日またゲーセンに行っちゃって。
バカですねえ、ホント。
でもね、コイン麻雀で四暗刻当たっちゃって、何百枚にもなりました。
で、またコイン落としゲームやっちゃって。
枚数あるからなくすの大変でした。
勝ったもんだからすっかり飽きちゃって。
やんなきゃよかったなあって思いましたよ。
なんでこう愚かなんでしょうかね。
で、それからすぐ定期的な仕事が見つかってなんとかなっちゃったんですけど。
あんまりお手軽なもんだから、またその年の大晦日が来た時に。
……つい、行ってしまいました……。
ちなみにその時は5千いくらでした。
もう、あんまりみっともないから、今はやってませんけどね。
いい加減、いい齢だしね。
まあホント、ロクでもないお話でした。
おわり。
※某巨大掲示板エッセイ祭り喜賞作