盆地
岡村明子

人の灯りが
山間に星空のようにまたたいている
地上の星という流行り歌があった
高台を走る田舎の高速道路から盆地を見下ろすと
それは星の吹き溜まりのように見えるのだった

星座には見えないが
人々はもっと近くで結びついているので
何千光年の遠くを見つめながら孤独に耐える必要もない
地上の闇は
宇宙の闇より
より親密に横たわっている

宇宙に産み落とされた生命の末裔は
小さな光を体内に灯し
内側から輝きはじめる

それは生命の約束
山間の平べったい集落から聞える呼吸

昼間
若者たちは山を越えて外に出る
山が見守るこの盆地では
夜のほうが人間らしい

朝の足音が聞えると
姿を現した山が吹き溜まりをすくいあげる
人々は星だった自分を忘れ
日常に忙しくする
田舎でも
毎日はせわしないのだ

ふたたび
山の後ろから闇が足を伸ばしてくると
人々は帰ってくる

そんなことを何千回も何万回も繰り返しながら
根を下ろしたこの盆地に
何万回めかの灯りがともりはじめる


自由詩 盆地 Copyright 岡村明子 2005-10-06 09:17:55
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