飛ぶのが怖い
クリ

自殺を考えたことがあります
いいえ、「考えた」のではなくって、「しようとした」と言ったほうがいいのかな
毎晩電話をかけてくる女の子がいまして、タイプじゃなかったんですけど、
いろいろお話するうちに、「情が移って」しまったわけです
かなり本気になってしまったんですが、ある時知ってしまったんです
彼女がとんでもない嘘をついていることを、とんでもない女だったことを
僕だけじゃなかったんですよ、早い話
それどころか婚約者もいたんですよ、信じられますか?
僕が聞いた「今日は帰りたくないの」っていうセリフ、何人も聞いてたらしい
もうね、世界が180度ひっくり返りますよ
それまでにも失恋はしてましたが、このときはそんなもんじゃない
一切、な〜んにも信じられなくなりましたよ
というか、生き続けるのがもんのすごい苦痛になったですよ
お金もそこそこあるし、仕事も順調、体は健康そのもの
しかし、一瞬一瞬が刺さって激痛、耐えられない
会社の他の部署に用があって、エレベータが来ないので
やむを得ず非常階段を使ったときです、ビルの外についてるやつね
踊り場でふと下を見たんです
そのまま落ちそうになったんです、無意識にか、意識的にか
「落ちればいい」と、感じたんですわ、「落ちたい」と
しばらく手すりにもたれて、地面を見てました
そのとき偶然なんですが、同僚がやはり階段を登ってきました
「何やってんの?」
そうしたら僕はとたんに恐くなって、手すりから離れました
なんとなく誤摩化しましたが、実際僕はヘナヘナ泣きそうでした
彼に感謝しています、いや、偶然にかな、神様にかな?
それから僕は、「落ちそうなところ」を避けるようにしました
高い所に行けば、きっと僕は「飛ぶ」だろうと思ったからです
「生き続けたくない」と「死にたい」は違うんですよね
生きているのが苦痛ではありましたが、死にたいわけじゃない
だから苦労しましたよ、飛ばないために、死なないために
彼女のことを今はどう思っているかというと、複雑ですが
「あんなやつも、いるんだなー」というところです
また会いたいとは、ちっとも思いません
ひとつ言えるのは、「あんとき死なないでよかった」ですよ
だって「あんなやつ」みたいなために死ぬなんて、あほらしいでしょ?
後悔してない自殺した幽霊なんか、絶対にいないと思う
「悲劇」の最中にそう納得することは、とても難しいんですが真実なんですよ
なんだかんだいって仕事などは「バリバリ」やってましたから
その痛手を乗りこえることも「バリバリやったろう」と決心
仕事で言うと「クレーム処理」(?)ですが、逆にそれを快感にしてしまえましたよ
「くっそー、克服したろーじゃねーか、見てろよバーカ、へっへっ」みたいな
その後、彼女が、当時の婚約者ではない男と結婚したと聞きました
それから、離婚したとも聞きました
今は、彼女のことは恨んではいませんけど、あえて愚痴を吐くのなら
「おかげで、高い所が恐くなっちゃったじゃないかよー」かな?
でも、あれですよ、「いつかパラグライダーやってみたい」と思ってる今の自分には
ちょっと満足かも、飛ぶのは怖くないし
カタルシスではないんですよ、ここまで読んで下さった皆さん
「あー、死ななくてもオッケーですよ、ほんと」と伝えたいわけで
もう寝ましょうね、明日がいつの間にか今日になってるわけで
そんなもんです

               Kuri, Kipple : 2005.10.05


未詩・独白 飛ぶのが怖い Copyright クリ 2005-10-05 02:02:55
notebook Home 戻る