赤とんぼ
ミサイル・クーパー

通勤電車に迷い込んできた
一匹の赤とんぼ

比較的空いている地元の電車
珍しい訪問者に
乗客たちの目元が緩む

夕焼けこやけの赤とんぼ
まだ朝だけど赤とんぼ

*

赤とんぼは車内を
低く低く
戸惑いながら飛んだ

驚いただろ
空の果てかと思ったかい?
あれは天井と言うんだよ

大丈夫
君の本当の空は
ちゃんとどこまでも
いつまでも高いから

*

たくさんのモノに囲まれて
飛びにくいかい?

これはモノじゃなくて
ヒトっていう生き物なんだよ
君と同じ
生き物なんだ

でもみんな黙っているね
モノみたいに黙っているね

*

乗換えの駅に着く
その少し前には

僕はもう赤とんぼの事を
忘れていた

ごめんね
君に心を奪われたのは本当なのに

考えなきゃいけないことが
いっぱいあって

ごめんね
確かに君に心を奪われたのに

*

本物の
夕焼けこやけの頃

僕は少しだけ
赤とんぼを思い出して

またすぐ忘れた

でも思い出したのは
本当

*

君は本当の空に
帰るんだね

そして君は

空のどの辺で
僕を忘れてしまうのだろう


自由詩 赤とんぼ Copyright ミサイル・クーパー 2005-10-01 01:40:58
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