小詩集「書置き」(一〜十)
たもつ
朝のやかん
なぞって
もう一度寝る
エビの夢を
見ながら
+
階段
すべてが
階段
そんな
建物
+
夕刊の
「帰」という字を
黄色く
塗っていくと
多いのか
少ないのか
よくわからない
+
歯を磨くことが
こんなにも
難しい
会えない人の
名を呼びながら
+
生きている、と
生きている人に
言う
しまらない
とどかない
+
カミツキガメ
に噛みついた
女の伝記
身勝手に生きて
身勝手に逝った
+
昔から部屋の中を
川が流れているのに
どちらが上流か
まだわからない
という夢の中で
魚は溺れる
+
もう少し
水のように話そう
双子の
手品師と
詐欺師が
シーソーをする
公園で
+
誰にも届けられなかった
花束が
空を飛んでいる
スズメやカラスが
群がり突っつく
しばらく見ていたけれど
他に珍しい鳥は
現れなかった
+
ベランダに
干してある
シャツ
パンツ
タオル
靴下
布類はいつも
そこで終わっている