小詩集「書置き」(一〜十)
たもつ



朝のやかん
なぞって
もう一度寝る
エビの夢を
見ながら

+

階段
すべてが
階段
そんな
建物

+

夕刊の
「帰」という字を
黄色く
塗っていくと
多いのか
少ないのか
よくわからない

+

歯を磨くことが
こんなにも
難しい
会えない人の
名を呼びながら

+

生きている、と
生きている人に
言う
しまらない
とどかない

+

カミツキガメ
に噛みついた
女の伝記
身勝手に生きて
身勝手に逝った

+

昔から部屋の中を
川が流れているのに
どちらが上流か
まだわからない
という夢の中で
魚は溺れる

+

もう少し
水のように話そう
双子の
手品師と
詐欺師が
シーソーをする
公園で

+

誰にも届けられなかった
花束が
空を飛んでいる
スズメやカラスが
群がり突っつく
しばらく見ていたけれど
他に珍しい鳥は
現れなかった

+

ベランダに
干してある
シャツ
パンツ
タオル
靴下
布類はいつも
そこで終わっている




自由詩 小詩集「書置き」(一〜十) Copyright たもつ 2005-09-30 23:48:23
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