そうして明日を選んだ
銀猫

あの日も汗を見ていたのは

水色のユニフォームと白い靴
時の詰まったタイムカードに
行儀よく刻まれた青紫色の印字


晴れた夏にタオルを投げ捨て
雪の日も半袖は変わらず
(腰に装備したコルセットだけが
 わたしの味方)


半人前の介護士は
ひとより多く「はいっ」と応え
苦手な仕事から順番に
いかにも好き、の風情で
笑ってかわさねば
自分の闇に呑まれてしまいそうだった


嗚呼
それでも時折神がかりのように
降り注ぐ人の情と
信頼の成立した涙と声と


与えられたものは数知れず
それら数々のちからに
この身に血を湧かせ
わたしはひとりの人間になった


わたしの生きた一年が
誰かの記憶の欠片となる日


見慣れた病棟には
見知らぬ患者が横たわり
次の笑顔を待っている

其処にある
終末期の白いベッドには
雨垂れの点滴が落ちる



ごめんなさい
今日のところは
さようなら、です
わたしは
明日を選びました



ありがとうでは
とても追い付かないけれど



自由詩 そうして明日を選んだ Copyright 銀猫 2005-09-30 12:38:47
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