ふるえ Ⅲ
木立 悟
長い時をかけて
風が風になってゆく
しげみから飛び立つもの
水の上をゆく光
壊れかけた庭に引き寄せられる
残された数本の木々に引き寄せられる
闇がさくさくと
冷えた草を踏みしめる
とり残された庭のすみに
冬がゆっくりと横たわる
かがやきのない銀色の
たなびく髪のような原が
庭のむこうにざわめいている
棘のかたちに固まった光が
手のひらと
胸と胸の間にとどまり
またたいている
原のなかに立ち
両腕をひろげる子の上に
遠い雷のむらさきが降る
風ではないものが風になり
低地へ湿地へ吹きおりる
風ではなくなったものも一緒に
あらゆる草のかたわらをゆく
夜空のはざまを
何か明るいものが通りすぎ
銀と緑とむらさきの子は
雪が降りるすぐ前の
世界の白さをあおぎみる