ふるえ Ⅲ
木立 悟





長い時をかけて
風が風になってゆく
しげみから飛び立つもの
水の上をゆく光
壊れかけた庭に引き寄せられる
残された数本の木々に引き寄せられる


闇がさくさくと
冷えた草を踏みしめる
とり残された庭のすみに
冬がゆっくりと横たわる
かがやきのない銀色の
たなびく髪のような原が
庭のむこうにざわめいている


棘のかたちに固まった光が
手のひらと
胸と胸の間にとどまり
またたいている
原のなかに立ち
両腕をひろげる子の上に
遠い雷のむらさきが降る


風ではないものが風になり
低地へ湿地へ吹きおりる
風ではなくなったものも一緒に
あらゆる草のかたわらをゆく
夜空のはざまを
何か明るいものが通りすぎ
銀と緑とむらさきの子は
雪が降りるすぐ前の
世界の白さをあおぎみる








自由詩 ふるえ Ⅲ Copyright 木立 悟 2005-09-28 17:48:08
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