弥生・三月・夢見月 ー北鎌倉・東慶寺にてー 
服部 剛

石の階段をぐ上ると
いにしえの文人達が林に眠る東慶寺

境内の門の向こうには
紅白の梅園が広がり
石畳の正面奥に
惑いなき御顔で座る大仏

 弥生・三月・夢見月

暗闇に咲く花弁を抜けて
林に入ると
太槍を晴天に突き刺す
杉木立が青年を見下ろす

無言の木々に 
手を合わす 
 
白い煙の情念は
幹の間を昇りゆく

夢を見据える 
青年のこころは一本の杉の如く 
目の前を覆う霧を
突き抜ける、明日へ    

草の茂みに独り立つ
にこやかな地蔵と目を合わせた後
林に背を向けて歩き出す

夜の帳が下りた境内の小梅等は
ためらいがちに下を向き
伸びゆく石畳の道の向こう 
 

 山々の上

 丸く 真白い 月

 横切る雲

 風に震える枝 

 運ばれる梅の薫り


感覚の眼に映る
一つの宇宙

夜の息吹に頬を撫でられた 
恍惚の青年

背後に眠る暗緑の林では
文人達の墓石が
青光の羽に姿を変えて 
蝋燭ろうそくの炎のゆらぎで
闇夜に明かりを灯していた 








自由詩 弥生・三月・夢見月 ー北鎌倉・東慶寺にてー  Copyright 服部 剛 2004-01-03 11:54:44
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