弥生・三月・夢見月 ー北鎌倉・東慶寺にてー
服部 剛
石の階段を真っ直ぐ上ると
古の文人達が林に眠る東慶寺
境内の門の向こうには
紅白の梅園が広がり
石畳の正面奥に
惑いなき御顔で座る大仏
弥生・三月・夢見月
暗闇に咲く花弁を抜けて
林に入ると
太槍を晴天に突き刺す
杉木立が青年を見下ろす
無言の木々に
手を合わす
白い煙の情念は
幹の間を昇りゆく
夢を見据える
青年のこころは一本の杉の如く
目の前を覆う霧を
突き抜ける、明日へ
草の茂みに独り立つ
にこやかな地蔵と目を合わせた後
林に背を向けて歩き出す
夜の帳が下りた境内の小梅等は
ためらいがちに下を向き
伸びゆく石畳の道の向こう
山々の上
丸く 真白い 月
横切る雲
風に震える枝
運ばれる梅の薫り
感覚の眼に映る
一つの宇宙
夜の息吹に頬を撫でられた
恍惚の青年
背後に眠る暗緑の林では
文人達の墓石が
青光の羽に姿を変えて
蝋燭の炎のゆらぎで
闇夜に明かりを灯していた