生まれなかった命にむけて
ベンジャミン
兄、あるいは姉と呼ぶべき
生まれなかった命にむけて
もしかしたらこの時代は
貴方たちの手で変えられたかもしれないと
そんな期待を寄せるわたしは
我が侭だとわかっています
けれどそのためにわたしという存在は
あまりに無力であることを
嘆いてもいいでしょうか
悲しみはいつも
優しい言葉で近づいてくるのです
*
弟、あるいは妹と呼ぶべき
生まれなかった命にむけて
もしかしたらこの時代に
君たちの夢や希望があるとしても
それはいつか君たちを裏切るかもしれないと
教えようとする愚かなわたしです
だからこの口を閉ざすことなく
それを君たちに伝えずにすむことを
感謝してもいいでしょうか
苦しむことは
美しいことではないと知っているのです
*
息子、あるいは娘と呼ぶべき
生まれなかった命にむけて
もしかしたらこの時代で
上手に生きてゆく方法を教えてあげられたかもしれない
けれどわたしはそうではない道を歩いてゆくから
その背中を見て育つはずだった君たちは
わたしをどう思ったことでしょう
正しさは君たちの中にあっても
それを自分で見つけることは難しいのです
わたしを父と呼ぶことなく
君たちは生まれなかった
それはわたしの勝手な願いだったことを
君たちは許してくれるでしょうか
わたしが生きるこの時代に
生きようと願うことすら許されなかった
もしかしたらこの時代を
わたしよりも愛せたかもしれない
生まれなかった命にむけて
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