弛緩
なかやまそう

浅い夕闇をきりさく
白と赤の急行電車は
あたたかい愛情と
あわい思い出と
あかい空っぽの
カバンを乗せて
ゆっくりと隅田川に沈む

水面に浮かんだ
マミドリのヒカリの
デコボコは崩れ

川の淵を歩く僕は
空き缶や新聞紙や落ち葉や汚物や
レースクイーンが表紙の雑誌や
泥や石や犬やベンチで眠る
ホームレスらと一緒に
あふれた水にのみこまれ

ぼくは今日
肉になった

白いけむりと外国人と
日本人の観光客であふれた
砂利道をすすみ
いきどまりでご縁を投げかけ
願いが届く確率と
精子が卵子にイきつく
確率をかんがえながら
手を合わせ


ぼくは今日
肉になった


逆光を走る電車に揺られ
目の前にすわる小さな
こどもの表情に揺さぶられ
しゃぶっている
ヨダレまみれなゴムを
落とした車内で拾い
くわえる煙草に火をつけ



ぼくは今日
肉になった



いびつな軌道で回る
エスカレータで
ぎゅぎゅうになって運ばれる
ただよう総和の中で
泳ぐ僕の遺伝子は
ヌルヌルと湿った空間で
生きるために殺し




ぼくは今日
肉になった




西陽に向かうあかい
からっぽのカバンと
からっぽの肉体は
ゆっくりと川底に沈み
でこぼこのヒカリを
通過してぼくは




今日





誕生して





肉になった




自由詩 弛緩 Copyright なかやまそう 2005-09-24 01:30:18
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