花時計
るるりら
【花時計】
ある一時
植物のように生きることを夢想する。宮沢賢治は雨ニモ負ケズといったけれど、植物は雨に負け夏の暑さにも負け
害虫にやられて レタスは高騰するのを見ながら。
ある二時
植物のように生きることを夢想する。東京で3時間の睡眠時間で過労で ぶったおれそうな日、ビル風にあおられながら
も種子を飛ばすタンポポを踏みつけながら
ある三時
植物のように生きることを夢想する。花屋の店先の店員にさしだした ちいさな小鉢
植わっている植物は三時草という多肉植物の開花。「こんな花しらないでしょ。三時のおやつをしらせてくれる花よ。
三時にしか咲かないの」そういって 花屋の店員に差し出した老婦人の皺のやさしさを思いながら
ある四時
植物のように生きることを夢想する。工場地帯の林立する社宅の四角い窓の下で おしろいばなの別名がFour-oclock
と、知った小学生。4時に咲く花と図鑑に教えられても 塾帰りには4時に家には塾の明かりの下。それでも種子を
取り ケサランパサランの寝床をこしらえながら
ある五時
植物のように生きることを夢想する。新築の窓辺で いただきもののアイランサスという南国の植物が 日のある間だ
け葉を広げて、夕方になると葉を閉じてしまう様子を眺めながら
ある六時
植物のように生きることを夢想する。雨の日にはすっかり葉や花を閉じて 遠くでカレーの匂いや焼肉の匂いがする団地
の片隅 心のふるさとを探しながら
ある七時
植物のように生きることを夢想する。夕顔が かんぴょうになって明日の遠足の太巻き寿司にかわってゆくべく 茶色に
煮ふくまれていくのを見ながら
ある八時
植物のように生きることを夢想する。ファッションリーダー ネタに踊る週刊誌の芸能人が ローカロリーな野菜中心の厳
しい自己管理をしていることに思いを馳せながら
ある九時
植物のように生きることを夢想する。真っ赤な薔薇が黒光りのする部屋の片隅で 絹をまとった少女をピアノフォルテ
が大人にかえてゆくのを感じながら
ある十時
植物のように生きることを夢想する。赤い口紅が 剥がれ落ち 内側から 高揚したほんものの紅がにじみでてゆくの
に当惑しながら
ある十一時
植物のように生きることを夢想する。瞼をとじれば どんな遠い人の心とも和することのできる そんな なにもない
自分に もどれることを祈りながら
ある十二時
恋人同士が同じ夢をみた。ふたりの根が 睦まじく絡み合い愛し合う そんな夢を見た。
植物のように活ける二人が咲き誇る夢だった。ある日、ふたりは植物ののように活きた。