フリーターでもニートでも
うめバア

ある時、何にもしない時期が
けっこう長い間、続いてしまって
ヤバイ、金がなくなる、と思って
バイトすることにした

別に
不景気だったし
フリーターとかニートとか
いろいろ社会問題とか
あったから
家にいるとなんとなく
ヤバサ感が増してきて

家のど真ん中にいるってだけで
超高層ビルの屋上の
鉄さくの上に
突っ立ってる…的な

どんより曇った冬の日なんて、もう…
足下を見つめたらぶっ倒れる…みたいな
そういう不安とかがあったから

バイトが決まって正直とても
嬉しかった
ホっとしたんだ

朝は5時45分に家を出て
7時半に店について
8時に開店するまで
少し時間があったもんだから
本当は掃除をしなきゃいけないけど
「別にいいから」って言って
ナカガワさんという先輩が
テレビのワイドショーをつけてくれた

煙草の煙がゆっくり揺れる
そういう時間とか
そういう会話とか
久しぶりだった
いや、初めてだったかもしれない

捕獲されたワニの話が
特別重要だったわけじゃない
テレビのある控え室は埃っぽかったけど
私にとっては、大統領のシェルターよりも
安全な場所になった

真冬の店先は
北風がもろビュービュー吹いてる
けれどそこが私には
一番あったかい、「教室」だった

店頭は、私と社会を結ぶ窓
レジ台を柵にして
私はささやかに身の安全を守り
軽い物欲を消化する人々の心の袖口に
そっと触れることができた

態度が悪いって怒られたこともある
接客には向いてないって
思ったこともある

次から次へと来るお客の
靴の裏についたドロを拭きながら
ため息をついたけど

私は私なりの方法で
その仕事に、慣れていったんだ

新聞の投稿記事に、書いてあった
「私は将来フリーターにはなりたくありません。
フリーターにならないために
今できることを、しっかりやろうと思います
17歳 高三」

「我が子をニートにしないために
両親ができること、それは何?
46歳 会社員」

いろんな人が、いろんな事を言う
それはそれで、立派だと思う
でも

私が一番好きだったのは
ワニの捕獲を一緒に見てた
ナカガワさんとの時間

ワイドショータイムがあったから
雨漏りでレジが使えなくても
列車が遅れて
大混雑に見舞われても
将来に対する漠然とした不安があっても
あんまり、落ち込んだりしないですんだ

こたつの暗がりを
ブラックホールの代用品にせずとも、
なんとかやっていけた

あ、もう、ないんだよ。
あの駅の、あの場所に
もう、その店ね

つぶれちゃった

今は、私
知らない人と、知らない場所で
やってかなきゃならない

相変わらず態度も悪いし
別に
脱フリーター宣言もしない
いつニートに返り咲くかも
わかんない

けど、まあ
どんより曇った冬空も
悪いもんでもないってふうに
多少なりとも
思うようになった

だからって、
成長も進歩も進化もしないよ

フリーターでもニートでも
私はどっちでも、いんだから



自由詩 フリーターでもニートでも Copyright うめバア 2005-09-19 01:37:46
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