月と幼子
日和

十五夜のお月さまがあんまり綺麗だからとかこつけて
不眠症の私は
窓を開け放して月を眺めていました
この夜は よく澄んだ涼しい夜で
遮るものもなくて
惜しげもなく
私に光を浴びせてくれました

私はこの光を
あたたかなこの光を忘れたくなくて
大きなキャリーバッグを引っ張り出してきて
月の光を収納しようと
ファスナーを引いたのです

月の光は また 惜しげもなく
私のキャリーバッグに注ぎ込まれました
みるみるうちにキャリーバッグは
月の光でいっぱいになって
ついには キャリーバッグの方が抱えきれなくなって
するすると
月の光は溢れ出て
キャリーバッグを溢れ出て
私の部屋の床いっぱいに零れました

床はあたたかく光っていました

月の光は私の影の上もするすると流れました
また 空からも
夜を流れてトクトクと
やわらかなそれが零れてきました
ひたひたと月の光に溺れてゆく感覚は
どうも
悪いものではありませんでした
 
私は
月の光の海にいだかれ
ゆらりゆらりと揺れながら
そして
なんとも言いようのない 4歳の少女のような気持ちでした


月は光を落としすぎたのでしょうか
はたまた
いつしか私は眠ってしまったのでしょうか
月が
静かに
静かに
夜に溶けてゆきました


自由詩 月と幼子 Copyright 日和 2005-09-18 23:57:49
notebook Home 戻る