newR

   
   旅


遠ざかる風景の中に、手を振る私がいる。
穏やかな表情で手を振る私は、微笑んでさえいる。
(あの時の私は悲嘆にくれていたのだ)
それを見ている私は、手を振れないでいる。
私は難しい顔をしているに違いない。
手を振る私は、ここにいる私を見ているような、
そんな気がして仕方がないが。
(あの私が、ここにいる私を見つける事はない)
あの私は、遠ざかっていく私達全てに向けて、
手を振っているに過ぎない。
(ただ、遠ざかっていく私達の事を、
いろいろと思い浮かべているのだろうが、
それがあの微笑みだ)

遠ざかる風景の中に、父と私が居る。
私は幼く、父に手を引かれている。
(あのような年頃の子供は、
手を引いていないと危なくて仕方ないのだ)
幸せとは言えない父の人生であったが、
幼い私の手を引く父はとても嬉しそうだ。
今も生きていたなら、孫の手を引いて、
同じ様な顔をしてくれたのだろうが。

遠ざかる風景は変わることが無い。
ただ、それを見る私が変わっていくだけの事だ。
遠ざかる風景の中で、全ての人が優しく手を振っている。
・・・アナタの旅が安全でありますように。
   良い出会いに恵まれますようにと、
   祈っているのに似ている。

遠ざかる風景の中で、
幾十人、幾百人もの自分が居て、
それを取り巻く沢山の人が居た。
どの私も微笑んで手を振っていた。
(様々な想いを馳せながら)
いつか、今の私も手を振る時が来る。
遠ざかる私に、
様々な想いを馳せながらも、
たぶん、よい笑顔で。
(・・・アナタの旅が安全でありますように。
    良い出会いに恵まれますように)




自由詩Copyright newR 2005-09-12 11:11:32
notebook Home 戻る