夕暮れの芯
霜天

ふと、迷うということをしてみて
揃わない手のひらで地図をなぞる
帰る時間になりました、と言われるけれど
本当はどこへ帰りたいのだろう

誰か
夕暮れに誰か
流れていく群れを、逆に擦り抜けながら
その目、目は何処へ、何処を
向いているのか、教えて
何処へ行きますか、この街は

空がますます低くなって
私は少しだけ息を止める
ひとつ、ふたつ、みっつと
折り曲げる指の中で
世界は少しずつ途切れていく
もうこんなにも遠くなったのですね
夕暮れの真ん中で誰かが歌う歌
帰らなければいけないけれど
もうこんなに遠くへ来てしまったのですね


夕暮れの赤が
一番赤に近づく頃
小さな公園で歌う人がいた
錆びたブランコの色は誰も覚えていなかったし
滑り台はもう、滑ろうにも滑れなかった
どんな歌かは覚えていない
公園の名前も誰も知らない
あの場所が夕暮れの真ん中と
今も勝手に、そう決めている


誰が教えてくれるだろう
誰も知ってはいないだろう
息を止めて、また吐き出す
私が少し休んでも、きっとこの街はずれていく
息を止めて、また吐き出す
帰りましょう、帰りましょう
思い描いたその場所は
きっともう、誰も知らない


自由詩 夕暮れの芯 Copyright 霜天 2005-09-07 01:44:16
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