降り来る言葉  Ⅷ
木立 悟



風があり 葉があり
木々はゆっくりと点滅する
空にとどまるもうひとつの空
もうひとつの深緑
風になれないふたつの風


一本の木が
朝をさえぎり
音をさえぎり
葉と葉の間のわずかなかたちを
銀と灰の葉に変えてゆく


空にふせた大きなものが
かがやく青を流れてゆく
夜へと歩む大きなものが
道を横切り消えてゆく
夜の花を持つ大きなものが
聞こえない雨のなかに立ち
一本の木からはじまるものを見つめている


終わりとはじまりをつなぐ子が
ふと歌いよどんだ童唄のつづきから
空へ飛ぶ
空へ飛ぶ
見えなくなる
ふたつの風のかたわらを
別の空のかたわらを
去ってゆく色
去ってゆく音


雨は遠い一粒になり
小さな葉がいくつもいくつも
小さな家の窓にひしめく
光と水に洗われる子が
荒地の夜の火のように
入ってきてはいけないものに語りかける
濡れた花を持ち 立ちつくすものに
入ってきてはいけないものはないと
語りかける





自由詩 降り来る言葉  Ⅷ Copyright 木立 悟 2003-12-28 21:45:11
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