もも
服部聖一

「もも」のような人だった
夏の始まり
胃のあたりにひどい痛みを訴えて
青白くやつれていった
食べものの好みが変わって
「ガン」かもしれないと感じた
不意に 人生の何分の一かを失う と思った

失うこともあるかもしれないが
何事もなく、ガンもなく、嵐はさり
失ったかもしれない人生はまるまる残った


最後に食べる食べ物は「もも」に決めている
はしかい産毛の乳房のように熟れて
しあわせな気分の香りで
食べることは生きることに満ちて
甘く はかない香りは蓮の香りにも似て
ゆるく夏につながっている


自由詩 もも Copyright 服部聖一 2005-09-02 01:20:45
notebook Home 戻る