夜の地下鉄は海の匂いがする
ベンジャミン

ふと遠いところへ行きたくなる

通過電車に手をのばせば届きそうで届かない
本気で身を乗り出すと本当に連れ去られてしまうから
「危険ですから、黄色い線の内側までお下がりください」
というアナウンスに
いったいどっちが内側なんですかと呟いてみる


夜の地下鉄は
海の匂いがする


記憶をたどってゆくと懐かしさは塩辛い味がして
それが鼻の奥をつんと刺激しているのだと
となりで一緒に電車を待っていたおじさんは
もうすでに溺れかけていて
きっと早く楽になることばかり考えているのだろうけど
それは大きなお世話だとわかっている


夜の地下鉄は
海の匂いがする


足元の線路がのびてゆく方向を眺めれば
それは真っ暗な空間に吸い込まれていて
「2番線到着の列車は最終列車です」
というアナウンスに
どうしても優しさは感じられないと愚痴をこぼす


夜の地下鉄は


いつのまにか乗り込んだ車内で
座れそうで座れない隙間を見つけては
ため息をついてしまう

ふと思い出す
浜辺に打ち上げられた貝殻を耳にあてたとき
波の音が聞こえるような気がするのは
きっと気のせいなのだと

今だってそう
息をすることさえ忘れそうな重さに耐えながら
そんなとき何処からともなく


海の匂いがする
   


自由詩 夜の地下鉄は海の匂いがする Copyright ベンジャミン 2005-08-31 07:05:07縦
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