ピアノなら
A道化
昨夜は
わたしの体を切り捨てた反動で
わたしの夏がすうと遠のき、その反動で
体の、体であるという軸が大きくぶれた、ような
辛うじて肌寒いとわかるだけの
窓の形をした薄青い朝が
積もる床板へ、積もる床板へ、そっと
痺れ落ちているのは、昨夜からのわたしです
指がまだ指であるのか怪しんで
斜め東の薄明かりへ当てて確かめたら
腕の末端で、指は
妙に大人しくふるえる雛鳥の束みたい
それでもなお
指、ですか。
それでもなおピイともチイとも訴えずに
酷く指ですね、どうしようもなく。
だから
母体を失って噤んだわたしたちの為に
空気が、ピアノなら
嗚呼、空気がピアノなら、と思いました
2005.8.30.