発泡の夏
千波 一也
久しぶりに自転車をこいだ
思いのほか重くって
にわかに
ふくらはぎが
注意報
堪え
堪えて
焼鳥屋を目指す
男ふたり
「とりあえずビール」
と
おまえは言って
とりあえず
なんて
ビールに失礼だろ
と
思いつつ
ビールが飲めないオレは
ライム・ハイ
連絡が密な訳じゃないのに
近況はすぐに
浸透してゆく
三日ぶりだったっけ、と
少し酔う
制服だった頃と
制服を脱いでまもない頃と
眩し過ぎる日々は
しっかり肌を
灼いていたらしい
ジョッキに広がる不可視の青空
ほの暗い照明が
小粋だった
会計を済ませて店の前
「これって酒気帯びだよな」
と
サドルにまたがる
胃は重くても
ニヤっと笑えば
軽くなる
「しっかりこげよ」って
偉そうなおまえ
「らくしょうだね」って
偉そうなオレ
足とこころとをぎゅっと捕まえた
幾度目かの夏
久しぶりに自転車をこいだ
爽快だった
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【親愛なる者へ】