波間へ
霜天

夏暮れ
そのようにして僕らは消えていく夏の肌をなぞるようにして
曲がることを許されない光の束に手をかざします
手のひらのどこか、真ん中から赤く発光していくので
吸い込んだものを返還するように
さよならの口のかたちで、ゆっくりと息を吐き出すのです

空が傾けば
街は眠るしかないので
夏が沈めば
子供達は帰るしかないので
そのようにして、並んで座るようにして
波間へ沈み込む僕らを見ています


裏路地から逃げていくように
裏路地から逃げていくように
追い掛けていく景色は僕らの、奥のほうではいつでも
変わらない一枚の絵で流れていくものだから
手のひらひとつで追い抜ける気がする
夏暮れ
可能性、のようなものは一瞬の
発光する手の先で、ちらちらと舞い落ちます


いつかついた嘘の分だけ
君は半透明になっている
なにも知らない僕は、もう半分になっている
波間へ、投げ込んだボールはくるくると回りながら
気が付けばその足元に立っている

波間へ夏暮れ
もうここに、帰るしかないので
見ています、その
透けてしまった向こうの景色を

逃げるようにして
追い抜くようにして


自由詩 波間へ Copyright 霜天 2005-08-30 02:07:38
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